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ブリキの雨

にびいろの夏の空気が、アスファルトや、信号機に憑依している。ブリキのバケツを叩くようなけたたましい轟音が、遠くから聞こえる祭囃子のように、しんなりと近づいてくる。おれは夏が得意ではない。夏の真ん中、と…

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プリーツスカートの影を追う

指先でしがらみを器用にほどき、溶かし、最初から何事も無かったかのような平常心で前を行く。彼女は人生の台本を辿っている。表面上をひとつひとつ悠々と歩いている。決して寄り道はせず、口を挟むことさえ許さない…

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春暁

春が嫌いである。 春の香りが嫌いである。 寒暖差の激しいところも嫌いだし、四六時中風が強いのも気に食わない。 だいたい、春に良い記憶が無い。たいがいクソみたいなことが起きるときは春で、しかもそのクソみ…

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春愁

炬燵で暖を取りながら、アイスを黙々と食べる。そんな時間が必要だと思った。冷たくて甘い、そして固すぎる、あずきバー。大好物。箱アイスも2日で空になる。そんな時間が必要だ。 人肌恋しいような寂しさは欠けら…

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十二月一日前夜

冬のするどい空気の中で、星を見ている。すぐにオリオン座を見つける。どうにかして一句詠みたいような、そんなことをするのは無粋のような、曖昧な心境で相変わらず星を見る。何か鳥の囀りが聴こえる。奥の方から街…