17歳の勃起みたいにむくむくと創作意欲が湧いてきていて、久しぶりに小説を書いている。平日家に帰ってきて酒飲みながら1時間くらいこつこつと、月曜に思いつきで書き始めたからとりあえずこの1週間続いたことになる。土日でどれくらい進むか楽しみ。
この衝迫には自覚しているきっかけが2つあって、ひとつはドライブ・マイ・カーという映画を観たこと。心震える映画体験が久しぶりだったわけではないけれど、自分の中のスイッチが音立てて切り替わった感じがあった。もうひとつは、手すさびに進めていたカズオ・イシグロの短編を翻訳し終えたこと。ナラティブとドラマツルギー、キャラクターの立ち上げ方、を、人の乗り物借りて練習させてもらった感じ。ちょうど先月レンタカーを借りて久しぶりに車を運転したんだけど、今ちょっとマイカーが欲しくなっている。この感覚に似ている。光岡自動車のビュートってやつが可愛い。
今では読み返すのも恥ずかしい代物だけど処女作と呼べそうな短編を22歳の夏に書いた。だから、5年ぶりになるか。奇しくも車を運転しない男が女にふられる話だった。そのうち手直ししたい、と思って5年経った。
このアパートで初めて書いた投稿に「長いのを書きたい」などとうそぶいて、一体いつになったら書くんだろう、と思っていたが、ようやく手が動きはじめた。ラストシーンはぼんやり決まっている。俺はどこに向かい、導かれ、辿り着くのか、着かないのか。理屈はあとだ、みんな死ね。
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くだんのカズオ・イシグロの掌編を教えてくれた米国人のデスクの上に、レイ・ブラッドベリやヴォネガットのペーパーバックが積んであったから、勇気を出して話しかけた。彼はWOWと大文字でいって、俺には聞き取れない速度で、それでもきっと平易な語彙を選んでくれていたのであろうけれど、何か嬉しそうに言っていた。「Recently」というのが聞き取れた。俺はヴォネガットの『スローターハウス5』を指差して、「ヒューマニズム!」と叫んだ。
それから彼は紙に『Blood Meridian』と書いて、次に読もうと思ってるんだ、と教えてくれた。俺はコーマック・マッカーシーだ! と思って、コーマック・マッカーシー! とまた叫んだ。『ザ ロード』だけは読んでいたので、ファザー&サンがアフターザウォーのエンドオブザワールドで、と説明したら、たぶんわかってもらえた。嬉しかった。