これでいて結構キーボードには思い入れがある。青春の半分をコイツに叩き込んできたのだから、否が応でも情が沸くというもので。いや、美談にするのはやめよう。率直に言えばめんどくさいこだわりがある。
キーボードを打った時の音は「打鍵音」と呼ぶ。偉そうにいま括弧付きで書いてみせたが、僕はこの「打鍵音」の読み方を知らない。「だかぎおん」と呼んでいる。だっせ。ともかくそんなだかぎおんに、僕は人並み以上のこだわりを持っている。
まず重視されるのが静音性だ。ガチャガチャガチャガチャいうんでは、長文を書くときに気になって仕方がない。しかもガチャガチャいうキーボードは主にキーが立体的な構造をしていて、「おれを押せ!他は押すな!」の如く主張してくる。さらにゴミがたまりやすい。うるさい・むかつく・きたないの三拍子がそろった、一体だれが得をするのかわからない設計である。
そこでくるのがパンタグラフ式と呼ばれるキーボードだ。これは主にノーパソなんかに搭載されているやつで、キーが平べったくだかぎおんもパタパタいう程度なので静かである。あと、高速でタイピングしているとサマになる。そんなわけで僕はパンタグラフ式のものを好んで使っている。しかし先日新調したキーボードは、僕の予想を遥かに超えていた。
Amazonで税込み2,999円ポッキリで購入したものだが、まずだかぎおんがめちゃくちゃかっこいい。僕のいじらしい性癖はこう主張する。たしかにキーボードは静音であってほしい。が、ある程度「押した感」も欲しい。静かであればそれでいいというわけではないのだ。オノマトペを用いるのなら、「ガチャガチャ」と「パタパタ」の中間に位置する、「パチパチ」が欲しいのである。そして今回購入したキーボードがまさにそれだった。
そして何より僕の性癖を満たしたのが、エンターキーの押し心地とだかぎおんである。通常のキーは「パチパチ」と抵抗もなく子気味良く鳴いてくれるのが、エンターキーだけわずかな抵抗と共に半音高く「チキッ!」というだかぎおんを鳴らす。こいつは鳥肌もんである。パチパチパチパチ……チキッ!とまあ、こうくるわけだな。
文章に於いてリズムを重視する僕にとって、だかぎおんの優れたキーボードというのは、ストラディバリウスにも匹敵する。
昨今、スマホのフリック入力で文章を書くことも増えたが、やっぱり僕はキーボードが好きだ。長文を書くなら断然キーボードだ。チキッ!てしまくれるから。かっこつけれるから。誰にも見られてないけどな。
※「打鍵音」は「ダケンオン」と呼ぶそうです。