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ブリキの雨

にびいろの夏の空気が、アスファルトや、信号機に憑依している。ブリキのバケツを叩くようなけたたましい轟音が、遠くから聞こえる祭囃子のように、しんなりと近づいてくる。おれは夏が得意ではない。夏の真ん中、とりわけ誰もいない淋しい場所で、蝉の声や、肌を灼く太陽にじっと耐えている時、あれが夏の真ん中のような気がする。逃げ水を追い、陽炎に騙される。人々はうつろに働き、酩酊ですべてを忘れる。おれは防波堤を歩きたい。そこへ行って何をするかというと、洗い晒しのシャツと短パンを履いて、とぼとぼ歩き、半分まで行ったところで腰を下ろして、今ここでギターが弾けたらなぁ、とか考えながら、遠くを航行する極彩色の貨物線のゆがんだ輪郭をぼんやり眺めて、そこそこで切り上げる。今年の夏こそ、なにもしない。

テオ・金丸です。コーポ湊鼠管理人。

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